Picoti-Picota

地面に、散らばるエサ、つつけ、つつけ、ツンツンと

ペーパーナイフが使えない女

封筒を開けるのがへただ。

いつも、とっさにハサミが見つけられなくて、ノリではりついたところを指で摘んではがす。

うまくはがれずに、紙の上の層だけが途中までやぶける。

わずかに開いた穴があればそこに指を突っ込んで、ぐいぐいと破いていく。

破れ目は当然ぐちゃぐちゃになる。

時には調子よくスーッと敗れるのだが、そういう時は高確率で紙の鋭利さに皮膚が負けて、怪我をする。

幸運にもハサミをみつけた場合はスムーズかつ綺麗に切り開くことができるが、きちんと光に透かして中の紙の位置を確認しないと、いらぬものまで一緒に切り取る羽目になる。

中には封筒の天地めいっぱいに紙が詰め込まれている場合もある。

 

知り合いの女性で、郵便物を美しく開封する人がいる。

郵便物を手にすると、流れるような動作でペーパーナイフを引き出しから取り出し、机の上にしかるべき角度で封筒を置き、ノリと封筒との間にわずかに覗く隙間にナイフを差し込み、音も立てずに開封するのだ。

なんと、文化的で美しく、封筒への敬意ある所作だろうか。

自分の教養を微塵も感じられない普段の行いが恥ずかしいと思った。

 

ある日、鈍く銀色に光るペーパーナイフを文房具売場で見つけた。

悩むことなくそれを買った。

帰宅して、ペーパーナイフをパッケージから取り出し(もちろんパッケージは強引にやぶいて、台紙とプラを止めたステープラーの針もどこかに跳ねてしまった。数日後に裸足で踏みつけることになる)、ペンスタンドの新たな仲間に加える。

フフ、と笑った。

開封するべき郵便物はなかったが、ペンスタンドからもう一度取り出して手にした。

紙を切り開くためだけにある、人を殺せない刃がまろやかでやさしい。

これを持っているだけで、かの女性のように教養がありスマートであり仕事ができる人間に慣れた気がした。

 

はやく、なにか郵便物が届かないかしら。

 

人間、定まった住所を持ち、まともに税金や公共料金を払い、それなりに働いていれば、日々なんらかの郵便物は届く。

間もなく私の元へも郵便物が届いた。クレジットカードの利用明細兼請求書だ。

たいして喜ばしいものではないが、さあキミはこのペーパーナイフで美しく切り裂かれる最初の犠牲者だ。

ナイフの刃をべろりとなめ(るような気持ちになり)、封筒を裏返して机に置いた。

刃を差し込むべき封筒の封の隙間をさがす。あった。少し狭いが、まあ入るだろう。

先端を水平に差し込み、ぐ、と力を込めてナナメ左上に向かってナイフをスライドさせた。

 

ぐしゃ。

 

思った動きにはならず、ナイフは早々に封筒の折れ目に引っかかり、醜いシワを寄せながら紙は抵抗をした。

む、ともう一度力を入れなおしてスライドさせるが、ナイフはその本領を発揮させることなくがたがたと左右にぶれながら、小汚く封を切り開いていった。

 

最終的に、「指よりは、まあマシ?」ぐらいの仕上がりで、クレジットカードの利用明細兼請求書は姿をあらわした。

まだ刃が慣れてないからか、自分のやりかたがまずいのか。

まあ、このペーパーナイフも私も、開封に関してはちょっとした新人だ。これから仕事をちゃんと覚えていこうな。

そんな寛大な気持ちで、私はペーパーナイフをペンスタンドに戻した。

 

以後、ペーパーナイフ文字通りペーパードライバーさながらナイフとしての成長を見せないまま、ペンスタンドで鈍く輝いている。

そして私は今日も、指で雑に郵便物を開封し、その度に「あ」といってペンスタンドにある新人君を一瞥するのだ。

 

いつまでも封筒は綺麗に開かない。